らんこっこ音楽堂♪

ヴォイストレーニングとカウンセリング

マダムはなぜ「もういいです」と言ったのか?

私には良く行く個人経営のカフェがありました。

コロナの自粛に伴い、近場で飲食する人が増えたため、そのお店の予約が取りにくくなってしまい、最近は行くことが出来ていません。

 

ですのでこれは数年前の出来事です。

そこは、木で出来た内装が美しく、日本の美しい食器に盛り付けられたお料理をクラシック音楽を聴きながら頂ける、オーナーマダムの美意識が隅々まで行き渡ったお店です。私は月に1~2回、夫や友人とそこで予約制のランチを頂くのを楽しみにしていました。


その日も、友人と二人で予約したランチを食べたのですが、その後、ちょっとケーキも食べてみようか?ということになりました。ランチセットにも小さなデザートが付いてはいるのですが、そこは女性二人の好奇心です。

おいしかったね、と帰って来て、その日だったか、次の日だったか、マダムからお電話を頂きまして「ケーキの分の料金を頂くのを忘れてしまいました。」と。確かに、お支払いしていなかったのです。レジでの清算の時にも、楽しくおしゃべりをしていて、マダムも私も友人も気付かずにいました。その時に「では、次回、お支払いします」と口に出したかどうかは忘れてしまったのですが、心の中では次回、まとめてお支払いしよう、と思っていました。


そして、そのお電話から2週間~1か月後だと思いますが、次にランチを食べに行った時のことです。マダムがお食事を乗せたお盆を持って来て、そして「この間のあれは、もういいですから。」とおっしゃったのです。

 

「え?」と思いましたが、その店はマダムの美意識が内装やお料理、音楽だけでなく、接客の仕方にも表現されていて、他のお客さんもいる中で、おそらくマダムはお金の話をしたくないから、そのような言葉遣いをしたのだろうし、それを私がはっきり聞き返すのは無粋だと思い、その場では何も言いませんでした。

 

その日のお会計の時に「ケーキの分もお支払いします」「いえ、こちらが忘れたのですから」のようなやり取りをしたと思いますが、はっきりとは覚えていません。


私は、なぜマダムは「あれは、もういいです」と言ったのか?私なりに考えてみました。マダムはちょうど私の母と同年代、マダムのお嬢さんと私は同年代です。母くらいの年代の方がどう考えるか?と思うと、「借りたものはその日のうちに返す」と、お考えになって当然かな?と。

 

これは、マダムが私に対して、その日のうちに返して欲しいと思った、ということではなく、ご自身はそのように生きてこられて、それが常識だと思っておられるかも知れないな、ということです。そうなれば、次の日か、翌営業日には、私が支払いに来ると思っておられたかも知れません。ご本人にお聞きしていないのであくまで推測でしかありませんが。

 

これを読んでおられる方も、マダムと私と、どちらの感覚に近いかは人それぞれだと思うのですが、このギャップは世代の違いに由るところが大きいと感じています。私たちは自分の生まれた時代に最適化するような考え方や行動を求められ、学んでいきますが、時代が30年も違えば求められる考えも行動も違いますので、私はそこを想像することは出来なかったな、と思いました。

 

夫に、この出来事を話し、もし自分だったらどうする?と聞いたところ「俺だったら、電話をもらった時に、支払い方法について相談するかな?」と。もっともだな、と思いました。私は私の考え、つまり「次回、まとめて払う」が最適解と思っていましたが、相手のいることですので、相手がどうして欲しいか?はわからない。まして、30年近く歳の違う方が、どうお考えになるかは想像出来ない。だったら聞けばいい。シンプルにそういうことだな、と思いました。

 

世代間のギャップだけでなく、地域性や育った環境、他にもさまざまに考え方の根拠となることは多様であり、それらをすべて想像することは出来ないので、シンプルに相手の意見を聞くこと、そして自分の意見を伝えること。

 

これまで「思いやり」という言葉はもちろん知っていましたが、自分の解釈で相手に対して想像力を働かせるという意味に捉えていました。これからは、相手に尋ねること、と自分の中では意味を修正していこうと思いました。

 

 

この話は音声でも配信しています。音声ではちょっとニュアンスが違うかも知れません。

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