歌が下手だから直したい!と言ってきた女の子
「先生、私、歌が下手なの、自分でわかってる。
クラスで歌うと自分だけ違うから、直したいの!」
Mちゃんが児童合唱団に入ってきたのは
小学校2年生の時
ガラガラにかすれた声で
低い音域しか出ない。
合唱団には、
歌が好き、歌が得意、という子が集まっていた。
その中に入って
苦手な歌をなんとかしたい、と言う。
「わかった。じゃあ、一緒に直そう!」
その時のMちゃんは
低い声しか出なかったので
アルトパートに入ってもらった。
でも、出せる音域が狭すぎて
同じパートの人とも同じ音が出せない。
私はたびたび
Mちゃんの隣に行って耳元で歌った。
Mちゃんは、自分に先生(私)がつきっきりでいても
嫌がらず、恥ずかしがらず、懸命に私の声を聴いて
合わせようと歌う。
そして、他の子どもたちも
Mちゃんの目的を知っているから
誰もからかったり、文句を言ったりする子はいなかった。
それから
5年生になると
Mちゃんの声は音域が広がり、きれいになり、
どのパートの音でも正確に歌えるようになり
「クラスでもうまいって言われたよ」
と、報告してくれるようになった。
そして、6年生で退団するまで
Mちゃんは合唱団で歌い続けた。
きれいな声で、正しい音程で歌えるようになるまで
3年かかったMちゃん。
「歌が上手になりたい。」
彼女がそう望んで、それを私は手伝って、
一緒にやり遂げたこと。
それは、さわやかな思い出だ。