ShigeruKawai が心を映す鏡であること
「ShigeruKawai が心を映す鏡であること」とタイトルをつけたが、無論、何を語れる訳もなく。試弾させて頂いた貴重な体験を思い出としてここに記す。
「Shigeru Kawai」とは、河合楽器製作所の最高級グランドピアノのシリーズで、二代目社長であった河合滋さんのお名前にちなんでいるのだそうだ。
1999年の冬にリリースされた時、私はピアノ講師としてカワイの営業さんとお付き合いがあった。
表参道にあるカワイのショップへ用事で行った時、
「素晴らしいグランドピアノが出来たんですよ、せっかくだから弾いていって下さい」と、営業のYさんが熱心に勧めて下さる。
弾いてって……ったって、副科ピアノで、最高に頑張って勉強したのは、
シューマンの子供の情景、シューベルトの即興曲、ベートーヴェンのソナタ……。
それも暗譜で弾ける曲なんてあるかな?という……。
カワイのショップ、それも表参道。
恥ずかしいし、申し訳ない、でもでも、触ってみたいのはほんと。
とにかくもうこんなチャンスはないから、と自分に言い聞かせて触らせて頂いた。
試弾用の楽譜があったのか、覚えていないがソナチネのような曲を弾いた気がする。
「いかがですか?」
それはもう、鏡のようにこちらの全てを映す。
時代や曲の様式、作曲家の個性、そして自分自身の解釈、そう言ったものが頭と心の中にあって、表現したい人には本当に素晴らしいピアノなんだと思った。
ただし、何も考えてなければ、その「何も考えてない」ことを鏡のように映してくれる楽器なんだなぁ、とも。
そんなことを、しどろもどろになりながらもお伝えして、冷や汗をかきながらお店を後にした。
時代背景、曲の構成、和音やリズムなどの要素、作曲家の個性、そう言ったことの勉強と、実際に演奏する、ことは並行しておこなっていく。
たとえ、私の頭の中、そして技術が共に未熟だとしても、このようなピアノを使って演奏出来たらとても有意義かつ幸せなのだと思う。
何しろ「鏡のよう」に映してくれる楽器なのだから、もしも出て来た音が自分の勉強不足を感じさせるのなら、それを埋めればいい。もしも技術不足を感じさせるのなら、それを埋めればいい。
逆に、今の自分がわかっていること、出来ることは完璧に「音」として具現化してくれるのだから、そこに対する信頼感、満足感は計り知れない。
何もごまかさず、自分を知る。それが出来る楽器。
何も楽器のせいに出来ない楽器。そう思った。